残酷な真実と優しい嘘

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「海香、やっぱり亮さん、浮気してるんだと思う。ていうか、むしろ本気になっちゃったみたいな感じに見えた」 「ん」  声を出すとしゃくり上げそうになるから息で相槌を打つと、「海香ぁ~」とニナまで泣きそうな声を上げた。 「今からそっち行く。私、明日、休みだから、夜通し愚痴きいてあげる。海香も失恋した時ぐらい、仕事休んだっていいよ」  「待ってて」という言葉が尻切れトンボのように途切れて、電話は切れた。 「失恋かぁ」  恋を失ったから失恋。そうか、私は失恋したのか。亮ちゃんへの恋心はまだこんなに胸の中に溢れているのに。  世の中のほとんどの人が失恋を経験したことがあるのなら、みんなこんな苦しみに耐えているの? 私も耐えて生きていけるのかな?  目に見えないエアコンの風に、私のため息が流されていく。テーブルの上にはまだ竹下さんが飲んでいた麦茶のグラスが乗っていて、コースターに水滴を垂らしていた。  私も明日は休みだ。明後日からは朝からのシフトで夏期講習が始まる。  ニナはああ言ったけれど、失恋したからといって仕事を休んでいいはずがない。明後日からはちゃんとしなくちゃ。だから、その前に全部ニナに吐き出すのはいいことかもしれない。  こんな真夜中に飛んで来てくれる友達がいるということは幸せなことだ。きっとニナは失恋した直後に吐き出せる友達がいなかったから、未だに引き摺っているのだろう。今夜二人で愚痴を零し合ったら、二人とも前に進めるだろうか?  ニナが来るまでにやることはたくさんあった。シャワーを浴びて汗や涙を流したいし、フォトスタンドの割れたガラスもまだ床に散らばっている。  竹下さんの使ったグラスにはべったりとピンクのリップの跡が付いていたから、ティッシュで拭ってから洗おうとしたけれどやめた。あの人が亮ちゃんと何度も唇を合わせたことを想像しただけで吐き気がする。いっそグラスも床に叩きつけて割りたい心境だった。  結局、グラスはフォトスタンドの破片と一緒に紙で包んで、不燃ごみの袋に入れた。竹下さんから聞いた話の記憶も、全部ゴミ袋に入れてゴミの日に出してしまえたらいいのに。そんなバカな考えが頭に浮かんだ。
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