彼氏

10/10
4012人が本棚に入れています
本棚に追加
/451ページ
「へえ? それはずいぶん理性的な彼氏だね。やっぱり十個も上だと俺なんかとは落ち着きが違うんだろうな」 「博人(ひろと)は出会ったその日に最後までシちゃうタイプだもんね」  クスクス笑い合う恋人同士をぼんやり見つめた。毎度のことだけれど、ニナはもう新しい彼氏と“そういう関係”になっているらしい。それはキイちゃんも同様で、やっぱり私だけが未経験のまま。  向井くんに言わせると、亮ちゃんが一線を越えようとしないのは『理性的』で『落ち着きが違う』から。それはつまり年相応の経験を積んでいるから、向井くんみたいにガツガツしていないということなのだろう。裏返せば、亮ちゃんもハタチの頃は、付き合うことになった彼女をその日の内に押し倒したりしていたということになる。  いくら過去のことでも、亮ちゃんが私以外の女の子に(さか)っていたなんて、想像するのもイヤだ。その子に対しては抑えきれなかった本能が、今、私に対しては理性で何なく抑え込めているということも、考えるだけで何だか悲しくなってくる。やっぱり男性側の意見なんて聞かなければ良かった。  どうして亮ちゃんは付き合って二年も経つのに、私を求めてくれないんだろう。  どんなに忙しくても週に一度は会ってくれる。出掛ける時は手を繋いで歩いてくれるし、亮ちゃんの家で二人で過ごす時は必ずキスをしてくれる。でも、それ以上には進んでくれない。  好きな女性と一緒にいたら、その先を望むのは大人の男性だったら自然なことじゃないのかな? 亮ちゃんにその気持ちがないということは、私のことを女性として意識していないということなんじゃないかと思ってしまう。私に対する亮ちゃんの好意は、未だに妹に対する家族愛のようなものに過ぎないのかもしれない。
/451ページ

最初のコメントを投稿しよう!