十八歳、夏

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「私、お風呂に入ってくるけど、先に寝てていいからね」  お母さんはおやすみと言って、バスルームに行ってしまった。  食器を洗い終わった私は明日のお米を研いで、タイマーを何時にセットしようかと迷った。 「ねえ、亮ちゃん。明日の朝は何時ごろご飯食べたい?」  リビングでアイスを食べながらテレビを見ている亮ちゃんは、十年ぶりに偶然会ったばかりの幼馴染とは思えないほど寛いでいる。 「んー? 海香んちはいつも何時?」 「日曜日は大体七時頃かな」 「じゃあ、いつも通りで。俺、別に急ぎの用事はないから。海香は?」 「私? 私も別に。あ、じゃあ、ご飯七時にセットするね」 「うん。……なんか海香が俺の奥さんみたいだな」 「もう、何言ってるんだか」  呆れたように呟いて、慌ててキッチンに戻った。  奥さんみたいだって! 心の中でキャーッて叫んでから、炊飯器のタイマーをセットした。  キッチンの電気を消したら、亮ちゃんもテレビを消して立ち上がった。 「終わった? 寝ようか」  もしかして待っていてくれた? 亮ちゃん、疲れているのに。酔っぱらって眠いだろうに。 「あ、歯ブラシ出すね」  階段下の物置にはトイレットペーパーや洗剤の買い置きがたくさん入っている。私が未使用の歯ブラシと歯磨きを出すと、亮ちゃんは懐かしそうな目で覗いていた。 「よく隠れんぼで、ここに隠れたよな」 「うん。亮ちゃんは大抵ここに隠れてた」  そっか。幼児の私が見つけやすいように、いつも同じところに隠れてくれていたのかも。今になって中学生だった亮ちゃんの優しさに気付いた。  こうやって私はまた一つ亮ちゃんを好きになるんだ。  亮ちゃんと『おやすみ』と言い合うのも何だかくすぐったい。亮ちゃんは一階の奥の客間へ、私は二階へと上がって行った。  ベッドに横になって天井を見上げる。興奮して寝付けないって、こういうことを言うんだな、きっと。初めてのバイト、十年ぶりに再会した幼馴染。心身共に疲れているはずなのに、何だか眠れそうもない。  私の部屋の真下で亮ちゃんが寝ている。酔っぱらった時のお父さんみたいに、ゴーゴーいびきをかいているのかもしれない。そう思って耳を澄ましてみたけれど、時計の秒針がカチコチいう音しかしなかった。  腕と足がヒリヒリして、ちょっと痛い。明日になったら、真っ赤になっているかな。    明日になったら……亮ちゃんは東京に帰ってしまう。付き合っている人がいないなら、連絡先を交換してもいいかな?
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