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キラキラ輝くあなたを見ていた。流れる汗が光って、仲間とハイタッチしたその笑顔が眩しすぎて、私は堪らなくなって俯いた。
こんなに長いこと、あなたは私の中にいたから、消し去ることなんてきっと出来ない。でも、そうしなくちゃいけない時が来るんだって思うと、息が出来ないみたいに苦しくなる。溺れて、暗い海の底に沈んでいくみたいに。
「亮さん、相変わらずのムキムキ筋肉マッチョだね。いいなあ。うちのダンナなんて私が転びそうになっても、支えきれなくて一緒に潰れそうだよ」
はあっとため息をついた萌が、苦しそうに体勢を変えて座り直した。
親友の萌は妊娠9か月。いつ生まれてもおかしくないぐらいに突き出たお腹をしている割には、フットワークが軽い。私がビーチバレーの試合を観戦するために地元の戸波に帰ると言ったら、すぐにこうやって会いに来てくれた。
今、その視線の先には、砂浜で試合前の練習に汗を流す私の彼氏がいる。
「いいじゃない。ダンナさん、優しいんだから。萌のこと、すごく大事にしてくれてるでしょ? それが一番だよ」
「そうそう。おまえなんかをもらってくれたんだから、文句言ったらバチが当たる」
私に同意しながら、イチゴ練乳のかき氷を持ってきてくれたのは哲平さん。夏はこの海の家、それ以外の季節には漁師をやっている萌のお兄さんだ。
「何よ! ”おまえなんか”って」
「海ちゃんはしばらくこっちにいるの?」
妹の抗議をまるっと無視して、哲平さんは私に尋ねてきた。
「ううん。試合を見たら帰ります」
「ゆっくりしていけばいいのに」
「親にもそう言われたけど、明日も仕事だから」
今朝、実家にちょっと顔を出したら、お母さんが亮ちゃんに「いつになったら海香をもらってくれるの?」と訊いていた。
私は苦笑いした亮ちゃんの顔から目を逸らして、無神経なことを言うお母さんを睨んだ。
亮ちゃんを困らせないで。私がちゃんとするから。優しい亮ちゃんは別れを切り出せないでいるだけ。
だから、今日、私がちゃんと解放してあげるんだから。
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