その翌日

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「なんかマンションが増えたよな?」 「うん、増えた」 「ここ、何があったっけ?」 「何だっけ? あっ、畑だった」 「そっか、畑か。……なんか景色がずいぶん変わったな」  亮ちゃんが少し寂しそうに言った。  十年前は田んぼや畑が広がっていた我が家の周りも、今では住宅が増えた。ずっとここに住んでいる私にとっては少しずつの変化だったけれど、十年分の変化を目の当たりにした亮ちゃんにはショックだったようだ。  向こうから犬を連れた若い夫婦が歩いてきて、お互い会釈をして通り過ぎた。あの夫婦には亮ちゃんと私はどう見えただろうか。歳の離れた兄妹? それとも若い父親と娘? 絶対、恋人同士には見えないんだろうな。  やっぱり亮ちゃんには、あのショートヘアの美人さんみたいな大人の女性が似合う。もしかしたら亮ちゃんとあの人は、まだお互いに気持ちを打ち明けていないだけで、何となくいい感じなのかもしれない。だからあの人、『亮』って呼び捨てにして、私を睨んだのかも。  「亮ちゃん、結婚は? まだしないの? 彼女はいなくても、好きな人はいるでしょ?」  結婚はまだ考えていない。好きな人も今のところいない。そんな答えを期待していたのに……。 「そりゃあ、俺ももう二十八だからな。出来れば早く結婚したいよ。……好きな人はいるにはいるけど……」  耳を赤くして首の後ろに手を当てた亮ちゃんをぼんやり眺めた。そっか。そうだよね。……なーんだ、いるんだ。好きな人。 「もしかしてビーチバレーのチームのショートヘアの人?」 「え? いや、違う! 全然!」  手を大きく振って全力否定する亮ちゃんに少しホッとした。あの人じゃない人がいい。私の全然知らない人の方がいい。 「海香は? その……好きな奴、いるんじゃないのか? クラスメイトとか卒業した先輩とか」 「私、女子校だよ? トナジョだもん」  通称トナジョこと戸波女子学園は小中高しかないので、大学進学を考えて他の私立や県立の高校を受験する者も多い。私がトナジョの小学校に通っていたことを憶えている亮ちゃんも、きっとそれを知っていて私が共学の高校へ進んだと思ったのだろう。 「そうか。ずっとトナジョか。良かった」 「良かった? 良くないよ。女子高育ちで男の人に免疫ないから、ナンパされると足が竦んじゃう」 「ナンパ⁉」  そんなに驚かなくてもいいのに。
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