その翌日

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 和菓子屋の角を曲がると、昨日通り過ぎたコンビニが現れた。夕べは県外ナンバーの車でいっぱいだった駐車場も、今朝はガランとしていてだだっ広く見える。 「アイス食べるか?」 「うん!」  勢いよく頷いた私だったけれど、コンビニのドアを開ける時に亮ちゃんが私の手を離したからガッカリした。アイスなんていらない。亮ちゃんと手を繋いでいたかった。 「どれがいい? どれでもいいぞ。おじさんが奢ってやろう」 「いいよ。自分のは自分で買う」 「いいって。おまえはまだ親に養ってもらってるんだから。どれがいい?」 「……じゃあ、これ。お願いします」  私が指差したのは一番安いソーダ味のアイスバー。 「ハハッ。海香と言ったら、これだよな」  亮ちゃんは笑いながら二本をカゴに入れると、レジに向かった。きっと、私の葛藤なんて何にも気付いていない。  小学生の私が大好きだったのはソーダ味のそれだけど、今は違うんだよ? 遠慮ってものを覚えたし、味覚ももうお子様じゃない。でも、私はまだ高校生で、亮ちゃんみたいに自分でお金を稼いでいるわけじゃない。亮ちゃんが『おじさんが奢ってやろう』なんて言って、私を子ども扱いするのも当然だ。  どうして亮ちゃんとの差は縮まらないんだろう。私が二十五歳ぐらいになったら、子ども扱いされなくなる? でも、その頃にはもう亮ちゃんは結婚していて、子どもが二~三人いるよね。  アイスのケースの前で立ち尽くしていた私は、すぐ隣に立った若い男の人の邪魔になっていると気付いて、慌てて横にどいて謝った。 「あ、すみません」 「ねえ、女の子ってどんなアイスがいいのかな?」  突然、そんなことを訊いてきた男の人は大学生ぐらいに見えた。ケースの中を見ずに、私に顔を向けている。車で待っている彼女さんにアイスを買って行ってあげるのかな? 「えっと、これとか?」  私が一番好きなイチゴ練乳のアイスバーを指差すと、肩越しに伸びてきた大きな手がそれをガシッと掴んだ。 「これだな? よし、レジに行くぞ」  亮ちゃんのカゴの中にはさっきのソーダ味とイチゴ練乳が一つずつ入っていた。 「え?」 「半分ずつ食べればいい」  グイッと手を引かれてから、その意味に気付いて顔が熱を持つ。半分ずつって……間接キス……しちゃうよ?
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