君だけに溺れる - side 亮

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 中学生になるとすぐ、俺は先輩たちに目をつけられた。背が高くて、目付きが悪い。それだけの理由で毎日呼び出されては、因縁をつけられて殴られた。先生にも親にも言えずに、心身共に傷ついていた俺を癒してくれたのが、近所に住む幼い海香だった。  海香への気持ちが恋だと気付いたのは、おばさんに頼まれて幼稚園に海香を迎えに行くようになったことがきっかけだった。  ある日、遠方に住む母親が倒れたからと言って、おばさんは俺の母にSOSの電話をかけてきた。出張中のおじさんが戻る夜まで海香を預かっていてくれないかと。お安い御用だと母は快諾したが、問題は働いている母が海香のお迎えに間に合わないということだった。結局、おばさんは幼稚園に連絡して、高校生である俺が迎えに行くと告げた。  海香の幼稚園に行くのは初めてだった。うちの近所には公園がなかったから、いつも海香と二人きりで海や神社や家の中で遊んでいた。海香が俺以外の男子と一緒にいるところなんて見たことがなかったから、園庭の砂場で男子たちとトンネルを掘っている海香を見た時のショックは大きかった。まるで貞淑な妻の浮気現場を見てしまったみたいな。  迎えに来た俺を見つけると海香はスコップもバケツも放り出して飛びついて来たから、俺の制服は砂まみれになったけれど、そんなことはどうでもいい。海香をギュッと抱きしめた俺の胸の中は、海香を誰にも取られたくないという独占欲でいっぱいだった。    こんなのは絶対おかしい。ロリコンなのか? 俺。いや、幼稚園児の海香の裸を見ても欲情なんてしたことない。大人の女のヌードには反応するんだから、俺は異常じゃない。じゃあ、この感情は何なんだ?  それから一週間、実家に帰ったおばさんの代わりに、俺は毎日、海香を迎えに行った。制服を着た高校生が迎えに来るのが物珍しくて、他の園児たちも俺が行くと駆け寄ってくる。きっと一緒に遊んで欲しかったのだろう。それを海香が猛ダッシュして来て阻止する。 「ダメダメ! 亮ちゃんは海香としか遊ばないの!」  俺を守るように両手両足を広げた海香の必死な姿に、笑いが零れた。  なんだ。俺は海香と同レベルなのか。俺たち、お互いを束縛したがっている。大好きだから。それだけのこと。それでいいじゃないか。  俺は自分の気持ちを深く追求するのを止めた。
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