その翌日

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その翌日

 最悪! スマホのアラームをセットし忘れるなんて。お母さんも起こしに来てくれればいいのに!   人の声や食器の触れ合う音で目覚めた私は、完全に朝食の団欒に乗り遅れてしまったみたいだ。二階の洗面所で顔を洗っていたら、亮ちゃんとお母さんの笑い声が聞こえた。寝癖すごいし。もう最悪。 「海香ー、起きたんなら下りて来いよ!」  洗面所は階段を上ったところにあるから、一階から見える。下からの亮ちゃんの声に、鏡の前で固まってしまった私。  嘘⁉ ひよこのパジャマ見られた。マジ最悪。  着替えて一階に下りたら、お父さんが日曜恒例の散歩に出かけるところだった。 「おはよう。行ってくるぞ」 「行ってらっしゃい」  玄関でお父さんを見送ると、今度はお母さんが洗濯物のカゴを抱えて脱衣所から出て来た。庭に干しに行くところだ。 「あら、起きたの?」 「起こしてよ」 「だって昨日は疲れただろうから、ゆっくり寝かせておいてあげたのよ」 「……ありがとう」 「ご飯、適当に食べてね」 「ふあーい」  返事と欠伸が同時に出た。 「おはよう」  爽やかに微笑んだ亮ちゃんを見て、私は一瞬、呼吸を忘れた。 「お、はよう。ヒゲ剃ったの?」  なんでヒゲを伸ばしているのか訊こうと思っていたのに。鼻の下にも顎にもヒゲがなくて、昨日より五歳ぐらい若く見える。 「ああ。おじさんにシェーバー借りた。ヒゲがあると、おっさんぽいだろ? ……なくても海香から見たら、おっさんか」  ハハッと笑って首の後ろを掻く。 「ヒゲがあってもカッコ良かったよ」  首の後ろの手が止まって、ヒゲがなくなった鼻の下を撫でた。 「どっちの俺が好き?」 「どっちも」  言っちゃった! 冷蔵庫を開けて、おかずを探すフリをしながら顔の熱を冷ました。  もうご飯を食べ終わっていた亮ちゃんは、麦茶を飲みながらダイニングのテレビを見ていた。ダイニングにあるテレビは小さい。リビングのどでかいテレビを見ればいいのに、と思ったけれど、亮ちゃんにそばにいてほしいから言わない。  昨日の天ぷらの残りをチンして、お味噌汁を温め直して。冷蔵庫から漬物とか麦茶とか出して、テーブルに並べた。ご飯をよそって座ると、亮ちゃんがこっちを見ていた。 「寝坊して、ごめんなさい!」 「やっぱり、髪下ろしてる方がいい」  二人同時に言って、なんだ謝ることなかったななんて思った。
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