ウミ

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「私の……産みの親だっていう人が、現れたんだって」 「え?」 しばらくして、ようやく開かれた相手の唇。 そこからポツリと吐き出された告白は、自分にとって全く予想外の、衝撃的なものだった。 「〝どうする?会ってみる?〟 昨日お父さんに聞かれて、思わず断っちゃった」 「…………」 ゴクリ。 生唾を飲み込む音が耳にこだまする。 「会いたく、ないなあ」 「会いたく、ないの?」 聞き返しながら、ちょっと、ほっとしていた。 居なくなったらどうしよう、という戸惑い。 ウミを見るのが怖くなる。 幽霊みたいにそのまま、すうっと暗闇に溶けて消えてしまったら……。 「だってそうじゃない? アサだったら、どうする? 自分を産んですぐ捨てちゃったような人に、会いたいと思う?」 「……いや」 「でしょ? ほらね」 今度はウミのほうが、少し安心したようにそう言った。 それから、ぼんやりと、遠い目をして続ける。 「だけど、どんな人なんだろう」 「わかんない」 あたりまえだ。 もう間抜けな返答しかできない。 話がショックすぎて頭が働かない。 「会いたくなくても、その人のところに行ったほうがいいのかな? もしかして、私」 「え? ……なんで?」 また子供みたいな言い方になってしまった。 しっかりしろよ自分。 情けないな。 「だって、もうずっと迷惑かけてるでしょ? お父さんとお母さんにも。 育ててくれたことを感謝してるけど、いつまでもこのままってわけに、いかないよね。 卒業したら、働いて家を出て、ちゃんと一人で生活……」 「どうして、そんなこと考えてるの? ずっと、うちに居りゃいいだろ? ウミは家族なんだから!」 「…………」 責めるような言い方したせいか、ウミはそのまま、うつむいて黙り込んでしまった。 どうしていいのか、わからない。 事態は深刻だ。 あっけらかんとした両親のもとで、当たり前のように育てられたせいか、今まで深く考えたこともなかったけれど、うちの家はこう見えて、そうとう複雑な問題を抱えているのかもしれない。
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