ウミ

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「なんか急に思い出した、昔のこと。 母さんがさ、ウミのことばっか可愛がってる気がしてた時あって、悔しくて聞いたんだ。 〝どっちのことが好きなんだよ!〟って」 握った手の指先に力をこめた。 相手を勇気づけるようにしてギュッと。 だけど僕らは一人じゃないから、大丈夫。 そんな言葉のかわりに。 「母さんから返ってきた答えは 〝バカじゃないの? どっちも大好きだよ!〟」 「あー。 お母さん言いそう」 「そう。 それから、思いっきり笑って抱きしめられた」 思いを込めて、相手を見つめる。 僕にはウミがいて。 ウミには僕がいるから。 きっと大丈夫。 沈んだりしない。 のまれたりもしない。 どんな波も、夜も越えていける。 朝にはきっと、笑っていられる。 「今、ウミに抱いてる気持ちは、そういう〝好き〟で。 ウミがナギ兄に対して思ってるのとは、違うかもしれない。 だけど、ウミを好きなことには変わりないから。 支えたいのも、大切にしたいのも、全部本当」 伝えたかったのは、そういうこと。 自分にとって大事。 なくしたくない。 一緒にいたい。 ただ、それだけのこと。 「そばに居て欲しいと思ってる。 毎日、顔あわせてたいと思ってる。 姿が見当たらないと不安になるから。 こんなふうな波と同じで、寄せたり引いたりしながら、それでもずっと変わらず、見つめてたいと思ってる」
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