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「いて、いいの? ここに。 私」
「うん。 消えたいなんて言わないで」
夜の潮騒が、次第に僕らを包み込んでいた。
緩急をつけながら、けれど、とどまるところを知らず、やんわりと押し寄せ続ける。
「本当のお母さんのこと、どうしよう」
「会いたいなら、会ってみれば?
ウミの泣き声が聞こえたら、連れ戻しに行っちゃうかもしれないけど。
僕らが出会った、あの朝みたいにね」
言ったら鼻をすすって、涙目のまま、ほほえみかけてきた。
濡れた頬に白い砂がついて、それがちょっと間抜けで、ちょっと無防備で。
なんだか自分が変な気分になるのが、納得いかない。 急いで目をそらす。
「何?」
「何でもない」
ウミは、くすくす。 小さな笑い声をあげながら、かかとをバタつかせ、わざと足元の海水をはねあげた。
パチャパチャと、しぶきが顔にまで飛んできそうになり、慌てて体を起こした僕。
その砂まみれの背中に、浴びせられた一言。
「アサがいて、よかったな」
【完】
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