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うちには〝ウミ〟がいる。 ある朝、海辺の洞穴の中で泣いているのを発見され、拾ってこられた子。 幼少の頃から、うちの両親は包み隠さず、その事実を僕らに伝えた。 たぶん、双子でもないのに同級生という、理由の説明がつかないと踏んだのだろう。 もしくは、思春期の多感な時期に、思いもかけず知らされることになるよりは……そう考えたのかもしれない。 『お母さんね? 赤ん坊のアサヒが泣きやまない時に、よく近所の浜辺を散歩してすごしてたの。 波の音を聞くと、なんだか落ち着くみたいで、すぐに大人しくなったから』 僕とウミをそれぞれ左右の膝の上にのせ、母は、にこやかに語った。 まるで、とびきり楽しい物語でも、話して聞かせるみたいにして。 ……あ。 ちなみに〝アサヒ〟というのは僕の名前です。 『ウミを見つけた、あの日の朝もそうだった。 波打ち際を歩いてると、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきてね。 不思議な気分だった。 あれ? おかしいな空耳? 腕の中のアサヒは、もうとっくに泣きやんだはずなのに。 それで声のする場所を探し歩いてるうちに、アサヒも、また泣きだしちゃうし。 なんだか二人で呼び合ってるみたいだった。 どこなのー? ここだよー! って』 その時の光景を思い出したのか、懐かしそうに目を細めて話す母。 母の口からこぼれ落ちる言葉を、僕とウミは足先でじゃれ合いながら聞いていたんだ。 『でも、本当に良かったよ。 あの日、明け方近くにアサヒがぐずってくれて。 潮が満ちてきたら、ウミのいた岩屋は海水に浸かっちゃうとこだったからね。 アサヒには感謝しなくちゃ。 こんなに可愛いウミと、引き合わせてくれたこと』 僕を抱っこしたまま、海辺で発見したウミをおんぶして連れ帰ってきた母を見て、家の人たちは、もちろん驚いた。 赤ん坊のウミは、しばらく施設に預けられたけれど、親だと名乗り出る人間は見つからず。 その間も、母はずっとウミの温もりが忘れられなかったらしい。 心配で毎日、僕と兄を連れ、家族で様子を見に行ったんだそう。 ほどなくして、両親はウミを引き取ることに決めた。 難しいことはわからないけど、養子縁組とか、そんな制度をつかって。 そうして、僕とウミは同い年のきょうだいとなる。 僕らが物心つく、ずっとずっと前の話。
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