ウミ

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「アサってさあ。 高校入ってから、変わったよね。 なんだか毎日、楽しそう」 「そうかな? けっこうダルいけど。 毎朝ふくらはぎパンパンになるし。 ウミのが楽じゃん。 電車通学のが絶対よかった」 「知ってるでしょ? 夏は電車が地獄なの。 海水浴とか観光客の人だらけで、すし詰め状態! 自転車の方が爽快だね。 間違いないよ」 その晩、ウミに誘われ浜辺に来ていた。 時々こうして、二人で他愛もない会話をして過ごす。 ただし、海辺に近づくなら、夏は夜と決めていた。 なにしろ昼間は暑すぎるから。 一歩外に出た瞬間、灼熱地獄。 強すぎる日差しに照りつけられ、あっという間に干からびる。 焼けた砂浜は、裸足で歩くのもままならないし、例えどんなに厚く日焼け止めを塗り重ねようとも、太陽のもとで一日遊んでいれば、必ずこんがりローストされてしまう肌は、夜中にヒリヒリ。 それから酔っ払った大学生。 これは男も女も要注意。 毎年どこから湧いてくるのか知らないが、海の家を根城に、浮かれてるうえに盛ってるから手がつけられない。 絡まれたら終わり。 気の弱い地元の青少年は、全速力で逃げ出す以外、方法がなくなる。 まあ、そんなふうに、浜に集まる人間が妙なはじけ方してるのも、夏の間だけだけど。 春や秋。 気候のいい季節は、いつものんびり。 サーフィンやセイリングを楽しむ人の時間がゆっくりと過ぎていく、そんな場所。 晴れ渡った空の下、おだやかな水面に日の光が反射する様は絶景で。 湾を縁取る海岸線と、橋渡しの島。 はるか彼方にそびえる山の稜線が、晴天のキャンバスにくっきり浮かび上がる眺望。 そんなのは、ただぼんやり見つめてるだけでも、解放感たっぷり。 勉強だとか人間関係、進路将来……自分をとりまく、煩わしいこと全てを忘れさせてくれる気がし、時を忘れて見入ってしまう。 とはいえ、もちろん週末の夜でもない今現在、この海岸には、僕ら以外誰もいないけどね。
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