8人が本棚に入れています
本棚に追加
「アサってさあ。 高校入ってから、変わったよね。
なんだか毎日、楽しそう」
「そうかな? けっこうダルいけど。
毎朝ふくらはぎパンパンになるし。
ウミのが楽じゃん。 電車通学のが絶対よかった」
「知ってるでしょ? 夏は電車が地獄なの。
海水浴とか観光客の人だらけで、すし詰め状態!
自転車の方が爽快だね。 間違いないよ」
その晩、ウミに誘われ浜辺に来ていた。
時々こうして、二人で他愛もない会話をして過ごす。
ただし、海辺に近づくなら、夏は夜と決めていた。
なにしろ昼間は暑すぎるから。
一歩外に出た瞬間、灼熱地獄。 強すぎる日差しに照りつけられ、あっという間に干からびる。
焼けた砂浜は、裸足で歩くのもままならないし、例えどんなに厚く日焼け止めを塗り重ねようとも、太陽のもとで一日遊んでいれば、必ずこんがりローストされてしまう肌は、夜中にヒリヒリ。
それから酔っ払った大学生。 これは男も女も要注意。
毎年どこから湧いてくるのか知らないが、海の家を根城に、浮かれてるうえに盛ってるから手がつけられない。
絡まれたら終わり。 気の弱い地元の青少年は、全速力で逃げ出す以外、方法がなくなる。
まあ、そんなふうに、浜に集まる人間が妙なはじけ方してるのも、夏の間だけだけど。
春や秋。 気候のいい季節は、いつものんびり。
サーフィンやセイリングを楽しむ人の時間がゆっくりと過ぎていく、そんな場所。
晴れ渡った空の下、おだやかな水面に日の光が反射する様は絶景で。
湾を縁取る海岸線と、橋渡しの島。
はるか彼方にそびえる山の稜線が、晴天のキャンバスにくっきり浮かび上がる眺望。
そんなのは、ただぼんやり見つめてるだけでも、解放感たっぷり。
勉強だとか人間関係、進路将来……自分をとりまく、煩わしいこと全てを忘れさせてくれる気がし、時を忘れて見入ってしまう。
とはいえ、もちろん週末の夜でもない今現在、この海岸には、僕ら以外誰もいないけどね。
最初のコメントを投稿しよう!