第1章

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 地下鉄に乗って、少年は都内の地下をぐるぐる回った。  一日中、朝から晩までぐるぐる回った。  少年は地下鉄が好きだった。地底の奥深くを突き進む地下鉄はモグラを彷彿とさせるから。  少年の夢はモグラになる事だった。日の当たらない地面の下で誰にも気付かれずに生きるモグラという生き物に憧れを持っていた。  地下鉄に乗る時の服装はいつも決まっていた。半袖に短パン。ヒヤリとした空気を肌で感じる為だった。  深層の土を思わせる冷たい空気の正体は冷房であったのだが、少年は気に入っていた。  少年には友達が居なかった。学校に話し相手は居るものの、友達だとは思えなかった。  少年には父と母が居なかった。両親は血の繋がった親ではあるが、お父さん、お母さんと呼べる様な人物ではなかった。  少年は孤独だった。  地上は少年にとって居心地の良いものではなかった。地上が地獄だとするなら、地下が彼にとっての天国だった。  地下鉄には毎日多くの人間が乗っていた。しかし彼らは皆、自分の事しか考えていなかった。他人等気にかける人間は居なかった。  地下では孤独である事は当然の摂理。少年には土の中が理想郷に思えた。  出来るならば、一生地下で過ごしたい、と、少年は思った。
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