第1章

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 ある日、少年は電車が来るのを見計らい、線路に降りた。  身体があるから地上での生活が強いられるんだ。ならば、いっそ魂になればずっと地下に居られる。そう考えての行動だった。  翌日の朝刊に『小学生男児が線路に転落』との見出しが踊った。  少年は誤って線路上に落下し、電車と接触、死亡したとの記事だった。  両親は取材に対し、「良い子だった。信じられない」と答え、嘘の涙を流した。  教師も、クラスメイトも、近所の住人も、口を揃えて同様の解答をし、同様の涙を流した。  誰も少年が自殺したとは思わなかった。違う。事故であってくれた方が都合良しとし、少年の自殺を黙殺したのだ。  少年はその事を知らない。魂となって地下から出ないのだから。  少年は地下鉄に乗って、今も都内の地下をぐるぐる回っている。少年は念願のモグラになれたのだった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加