29(承前)

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 タツオは男の子の言葉をきいて唖然とした。焼夷弾の中身は、主燃料のナフサにパーム油から抽出した増粘剤が加えられゼリー状になっている。人の身体や家屋につけばぬるぬるで落としにくく、界面活性剤を加えた水でなければとれないのだ。  それにいったん一度火がつけば1000℃を超える高熱ですべてを焼き尽くす無慈悲な爆弾である。そんな危険な爆弾を簡単に処理できると、子どもにも教えていたのか。かつての帝国軍は軍事的な知識をまともには教育していなかったようだ。 「武夫はまだ子どもなんだから、焼夷弾なんて処理しなくていいんだよ。とにかく、ここを通り抜けて、公園までいけば大人もたくさんいるし、なんとかなる」  静子が死神でも見るように、地中に半分埋まった焼夷弾を見つめていた。
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