29(承前)

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「さあ、いっしょにいくよ」  力強く弟の手を握り締めてくる。 「痛いよ、静子姉ちゃん。だめだよ」  武夫は街の映画館で観た、戦争映画を思いだしていた。地雷の埋まった中国の平原を、ひとりの勇気ある兵隊が先導していく場面である。 「あの爆弾はいつ爆発するかわからないんだよね。ふたりいっしょのときにバーンときたら、ふたりともおしまいだよ」  地雷なら先にいくほうが危険だ。いつ爆発するかしれない不発弾なら、あとからいくほうが危険だろう。狭い路地の両側から炎が迫っている。焼夷弾もさぞ熱くなっていることだろう。先ほど防火水槽からかぶった水も、もう半分くらいは乾いていた。息をするのが苦しいほどの熱があたりにこもっていた。
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