29(承前)

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 十数メートル先で振り向くと、両手を口にあてて叫んだ。 「つぎは武夫の番だよ。男の子でしょう。がんばって、ここまでおいで」 「まかせとけ、姉ちゃん」  武夫が両手をぶるんぶるんと振り回していた。タツオは男の子の身体のなかで祈ることしかできなかった。なんとかこの危機を切り抜けて、大人たちの待つ公園までたどりついて欲しい。  男の子は蹴り足に力をこめて、熱をもって乾いた路地を力いっぱい駆けだした。  両側には燃えあがる木造住宅、炎は長い舌のように路地に張りだしている。背を丸め、中腰で男の子は焼夷弾に近づいていった。  あと3歩で鉄の死の杭の脇を抜ける。もうきっとだいじょうぶだ。むこうでは静子姉ちゃんが手を振って応援してくれている。
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