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「扉が閉まります、ご注意ください」
だだだだだだだ
ピィーッ
だんっ!!
「はぁ、はぁ、はぁ」
扉が閉まる音と同時に飛び込んで来た男は、ガラガラの車内で席に座ることもなく、息を整えている。
息切れの声が小さくなって来たと思いきや、目の前で悠長に座っている男に怒鳴る。
「おい!!こういうことはもっと早く言えよなつき!!久しぶりに本気で走ったぞ」
なつきは涼しい顔をしている。
「多分さ、夕希ならさ、学校から駅まで本気出したら4分で来られるし、来てくれると思ってさ」
夕希は少し赤くなり、それを隠すように少し離れた席に座った。
「だからって、電車出る5分前に連絡するとかさ、ひでぇよ。」
「ごめんごめん」
夕希はなつきをちらっと見て、また前を向き直り、おう、と小さく返事をする。
「にしても、なんでいきなり海なんだ」
「え、なんとなく。海行きたくない?もう夏だよ?」
「だろうな、特に理由ないんだよな。なつきはいっつもそうだもんな。」
呆れたように、少しため息をつきながら夕希が呟く。
「夕希はいつも決まった通りに生活を送れてえらいよねぇ。」
「なつきが苦手すぎんだよな。まぁ、一緒にいたら飽きねぇけど…。」
「あっ、見えて来た!!!」
少しがっかりしたような顔の夕希と、なつきを出迎えたのは、昼過ぎの光を反射して、きらきらひかる、海だった。
「海の匂いするな」
「当たり前じゃん。潮の匂いだね。」
「波の音もするな」
「ははっ、さっきから当たり前のことしか言わないじゃん」
「だってさ、海なんか久しぶりだし。」
「あ、ほら、もうすぐだよ」
「え?」
なつきの指差した方向には、今にも水平線に沈みそうな太陽があった。
「うわ、うわぁ、すげー…」
「綺麗だねぇ、海に沈むの、見たかったんだよねぇ。」
「そうだったのか。」
「うん、だって、夕希の夕じゃん。夕。夕希と見たかったんだよね。」
「あ…」
夕希の顔が、太陽を反射しているように、赤く染まる。なつきは満足げに、悪戯っぽく笑う。
「帰ろっか。実はさ、終電後5分で出るんだよね。」
「え、ちょ、お前、そういうことは早く言えよ。てか終電早すぎねぇ?」
「田舎だもん」
「おい、走るぞ」
「うん、疲れたらおぶってね。」
「やだよ。ほら行くぞ。」
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