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黄金竜との暮らしが長くて、つい、忘れてしまった事。
竜は、野生の獣なのだという事。
人に触れたことのない、人の生死など歯牙にもかけぬ、誇り高い野の生き物。
偽りを。何より嫌う。
溶けた金のような眼に捕らえられ、少女は身動きもできない。
気力がすべて失せ、意識も霞むような、獣の怒り。
「私が人の姿になれば、情が移ると思っていたのか!
お前が沢へ落ちたのも、怪我をしたのも、計略のうちか!」
「ちが・・・あれは。事故・・・!」
竜は手荒く少女の首筋を掴んで顔を上げさせた。
半身を引きずりあげられ、痛みに声を上げそうになって必死でこらえる。
(力の入れ方がまだわかっていないのよ・・・)
「人間になってほしかったんじゃない・・・ただ、人間を襲わないって、約束して・・・欲しくて・・・」
燃え上がる、竜の怒り。
「私を謀るな!」
荒々しく揺さぶられ、とうとう少女は泣き出した。
泣きながら、竜を見上げ、悟った。
(何よりも、人間になって欲しいと、願ったんだ、私・・・)
黄金竜とは全く違う、荒々しく、若く。美しい、野生の獣。
傍らで暮らし、話しかけながら、人間だったらどんな姿を取るのだろうと、いつしかそればかり考えていたのだ。
人間を襲わないと約束をさせなければならない、大事な使命も忘れて。
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