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囁かれた薄い氷はつるりと滑って、流れていく。
聞こえない。
こんなの雪とオンナジだ。
朝になったら溶けて、水も蒸発して、跡形もなくなる。
きれいな雪の結晶は手のひらに載せたら消えてなくなる。
夢と同じだ。
「山クン」
ほんの少し低くなった声にビクリと震える。
冷たく咎めるような口調で、俺の名を呼ぶこの声が、恐ろしい。
夢だ。
そう呟いたつもりの声帯は、掠れた呼吸音しかこぼすことはしなかった。
「ね、山クン」
唐突に明るく声が変わる。
その途端に首筋に触れた温度に、弾かれたように体をのけぞらせ睨みあげた。
「あ」
声が、溢れる。
ああ。
あああ、あ。
俺の首にまわされた冷たい冷たい指先が、きゅうと力を込めて締められる。
見上げた先にあった、冷たく鋭利な瞳に、震えが止まらない。
「どう、し…て」
ずぅっとそれだけ考えていた。
コレは夢だと言い聞かせて、見ないふりをしていた。
「ふふふ。ヤッパリ見えてるんじゃないか」
嬉しそうに、笑う。
それなのに、目は冷たく濁った恐ろしいそいつは、いつか見た日の姿と何も変わらず立っていた。
「山クン?」
ああ。
おそろしい。
恐ろしいけど。
「じょうま…たつき」
懐かしい。
「そうだよ。おぼえててくれたんだ、嬉しい」
凍える声が聞こえる。
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