凍える声は砕けない

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世界は残酷だと、幼いながらに絶望というものを知った。 だから、小学5年生、進級間近のあの日。 俺は、俺がしたことを、悔いては、いない。 放課後、いつもの様にクラスを一番に飛び出して、条間から逃げ出そうとした俺は、何を一体どうしたのか、普通は開くことのない屋上に追い詰められていた。 運が良かったのか悪かったのか、勢い良くぶつけられた俺の体が屋上へとつながる古びた鍵をぶち壊し、何が何でもにげたかった俺は、一も二もなく開いた扉の向こうへ走った。 たどり着いたところが、屋上だ。 ちなみに、このときの逃走劇は周囲からは毎日恒例のおにごっこだと思われていた。 あながち間違いでもないが(条間はまさしく鬼だ)心情的には少々複雑だ。 とは言えその日起こってしまった事を考えると、その認識で都合が良かったのだが。 追い詰められて、追い詰められて、屋上の端、フェンスに背中がついた。 嫌な笑顔を浮かべたやつに身震いをすると、俺の気持ちを反映したようにざあざあと雨まで降り出して、隙きを突いて横にかけようとした俺は、水気に転んでたまたまもろくなっていたフェンスにぶつかった。 大きな音を立てて、フェンスが崩れる。 驚いたような条間の目。 伸ばされる手。 俺は、思った。 思ってしまった。     
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