凍える声は砕けない

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こいつと一緒に落ちてやろう、なんて。 伸ばされた小さな手のひらにしっかりとしがみついて、ぐっと引っ張る。 重力に従ったその力は思いの外強く、条間は勢い良く俺よりも遠くへ飛んだ。 その間際に、当然のように俺の背を内側へと押し込めながら。 俺の背中を蹴っ飛ばしたのだろう。 息が詰まって、屋上の端に両手をついた俺は、落ちなかった。 条間は、俺が彼を引っ張った力と、俺の背中を踏み台にして、あっさりと。 屋上から落ちていった。 その光景は、残念なことに今でもはっきり思い出せる。 ざあざあと雨が世界を白くする中、真っ赤に染まった条間の体と、生きているときと同じように意地悪く笑った口元と、今までに見たことのなかった穏やかな瞳が、俺を、じっと見つめていた。 俺はそうして悪魔から解放された。 俺は、そのことを後悔なんてしていない。 今でも、もしあの時に戻れるなら、おんなじことをしただろうと思える。 俺はその後親友の死を目の前で見て、傷心中のかわいそうな子扱いになって、学校を転校した。 転校した先で俺のことを知っているものはもちろんおらず、条間に支配されてるやつなんて1人もいなくて、普通に友だちもできて、普通の人生を歩んだ。 幸せな日々だった。 18になる、今日の日まで。     
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