凍える声は砕けない

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幼い日の姿のまんまの条間がいる。 直ぐ側で、いつもの様にわらっている。 ああ。 こんなやつのこと、もう、忘れていたのに。 ああ。 どうして。 恨みがあったのは、俺の方だろ? 第一、かってに俺を助けたくせに。 感謝なんてしない。 感謝なんてしてない。 いまでも、お前のことが嫌いだよ。 「じょうま」 「なあに、山クン」 俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに笑う。 それから不思議そうな顔をして、達樹って呼んでよ、なんて不機嫌な声音で言った。 条間は何も変わっていない。 美しい見た目も、人を操れるだけの威圧も、その腐った性根でさえも、なにもかも、昔のまんまだ。 あの頃に、戻されてしまったような感覚にめまいがする。 いやだ。 どんなに頼まれたって、あの頃には、戻りたくない。 だけれど、ひとつだけ違うことがあって、頭が悲鳴を上げた。 「愛してるって、なんだ」 ぶるぶる、大げさなほどに震える体とは真逆に、声は驚くほどに冷静だった。 その様子がこっけいだったのか、条間が、嘲り笑う。 「ははは、そのまんまにきまってるだろ」 いまだに力を込められていた首から、ふっと力が抜かれる。 幼い握力とは言え苦しかったそれに、思わず安堵の息がでた、と思ったときには、その呼吸は条間に全部食べられていた。     
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