凍える声は砕けない

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「っ、ふ」 腕を振る。 座っていた椅子が大きな音を立て、転げ落ちる。 自宅だから良かったものの、コレがもし構内であったらきっと俺は少し頭のおかしい人になってしまうだろうな、と思った。 俺の抵抗にピクリともしなかった条間は、どうせ、俺にしか見えていないんだろう。 「気持ちわるい…!」 声に交じる明確な嫌悪が伝わったのか、条間はなんとも思っていなさそうに酷いなあ、と声を上げた。 「それにしても、山クンってばよく落っこちるんだね」 にたり。 嫌な笑顔だ。 落ちる、と言う言葉に、条間の死んだ姿がよぎった。 眼の前にいる条間は、キレイな体だ。 赤くないし、割れてないし、折れてないしはみ出してない。 生きてる頃、飛び落ちる前の、子供にしては小綺麗でお高そうな服をまとって、当然のようにそこに立っていた。 「なんで、今更」 そう。 本当に意味がわからない。 条間が死んでからしばらく、俺は恐れていた。 条間の恨みを。 条間の呪いを。 条間の幻覚を。 世界の裁きを。 しかし予想に反してそのどれも俺に襲い来ることはなく、拍子抜けするほど平穏な日々が訪れ、そうして条間のことなど忘れていた、のに。 今日の日は、俺の誕生日だ。     
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