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ぐっと低く絞られた声に、いつもの気配はなかった。
いつもというのは──そう、“あたしに決して害をもたらさない存在”という意味だ。
「ええと、だれだっけ。ミヤザワ、だっけ。その男」
「う……」
だんだん冴島の手に力が入って、しゃべれなくなってくる。
「ああ、ごめん。痛い?」
「んう」
少しゆるめてくれたものの、つかんだ顎は放してくれない。
ひんやりとしていた冴島の指先があたしの体温と交わって、あたたまってくるのがわかる。
「ミヤザワは、よかった? こんな短期間でトリコになっちゃうくらい?」
「冴島……」
「……俺への連絡、忘れるくらい?」
「……!」
目の前でかぱ、と開いた冴島の唇。
そこに、とがった犬歯がふたつ見えた。
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