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「さえじ、まっ」
なんとか彼の唇を軽く噛んで、唇からは逃れた──けれど。
壁に手をつかれ、退路を断たれる。
しゃがもうにもあたしたちの間にはテーブルがあったから……逃げ場はなかった。
「アンタがだれも好きになったことがないことくらい、最初からわかってた」
赤くなった唇をぺろりと舐め、冴島は動揺した様子もなくあたしを見ていた。
「テツヤも、前の男もその前の男もそう。アンタ、ただ自分の居心地がよくなるやつと寄り添ってただけだったから」
「……し、知ってたなら教えてくれればよかったのに……」
「教えても、相手を変えるだけだ。……自分のテリトリーにいる女が、むやみやたら汚れていいとは思わない」
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