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「おはよう」
洗面所でヒゲを剃ってきた林聡介は、台所に立つ妻の久美子に声をかけた。
「おはよう。納豆を食べたかったら、冷蔵庫から出して」
「ああ」あくびをしながら、固定電話の近くにかけてあるカレンダーに目を向けた。3週間後の9月25日に大きな星マークが書き込んである。その2日後には2回りほど小さい星も。
「なあ、久美子」
「ん~?」妻はみそ汁に入れるネギを刻みながら、声だけ返す。小気味よい包丁のリズムが台所に響く。
「この25日のマークだけど」
その言葉を口にした瞬間、久美子の手が止まり、包丁の音色も途絶えた。こちらを振り向いたので、林は慌てて手を横に振り、
「もちろんわかってるよ。比呂人の誕生日だろ」
「ええ」
小さく頷いてから再び包丁を動かし始めたが、久美子の表情はどこか固い。林は咳払いをしながら朝刊を手にとり、
「比呂人はまだ寝ているのか」
「さっき声をかけたけど」久美子は廊下の方に顔を向け、「比呂人、起きなさい。あと1分でイスにつかないと、野球の練習に行かせないわよ」
久美子が大きな声を上げた途端、廊下の奥の子ども部屋が騒がしくなり、足音が廊下に響く。
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