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両腕が痙攣したようにぴんとつっぱり、身は橋渡しになってよこたえられ、力こぶを雲のようにふくらませて、過剰な力がこめられ、緊張にこわばった腹筋が、汗をしたたらせ、微細にふるえる、あの苦悶の表情の感じが、クリーム色のカーテン全体にみなぎり、周囲の空気をわななかせて、ときおり隙間からちらちらと熱っぽい月光を隠見させていた。そのたびに部屋の中央にたたずむ女神像の裸身が室内に蒼白くうかびあがった。
裸体像はあたかもそれ一個だけが独立した時間をいきるかのように、永遠の姿をそこにとどめている。両腕を首のすぐ後ろで交差して豊満な胸を切なげにつきだし、指先はかるく海藻めいた髪の毛をなみうたせるようにたわめられ、胴体は蛇をおもわせる蠱惑的なしなをえがき、脚はいっぽうはまっすぐのばされ、一方は挑発的に軽く爪先だってくねっている。
その裸像の四囲に、四脚の椅子がめぐらされ、そのひとつに彼がすわっていた。彼は女神像を下からみあげながら、ときおり席をかえ、角度をかえ、その裸体像をくまなく観察した。
彼はただじっとそれをみているだけだった。ふれることはもちろん、絵に描くこともない。凝然と闇そのものに化身したかのように椅子のうえに鎮座し、ただ炯々たる眼光だけを女神像の上に造次ももらさずすべらせ続けていた。
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