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"かぐや姫"
日本最古のSF小説の最高峰と称される、この物語は俺の棲んでいた月でも、かぐや姫を超越した物語は2000年代を過ぎた今も現れないと言われていた。
月の民と地球の民との異類婚姻譚。その最初の人種が、日本と言う小さな島のニホン人と言う人達だと、かぐや姫には綴ってある。
月から来たかぐや姫を養女として成人する迄育てあげ、婚姻の面倒まで見るとも。
噂に聞いていた、ニホン人は、ヤサシサや、オモイヤリ、タスケアイと言った概念を大切にするおくゆかしく謙虚で素直なものが多いと言う話は本当だった。
これだけで、幼い俺が地球の日本と言う島国に興味を持つのに充分だったが、かぐや姫は、現代の地球を予言した予言書でもあったのだ。
少子高齢化社会に、高齢者の労働。養子縁組や里親制度。更にはアメリカのエリア51の存在を予言するばかりか、かぐや姫の物語は実在する歴史であることをも証明していた。
かぐや姫と言う登場人物は実在していたのだ。
物語通りならば、月に還っている筈だが......
文明があまり発達していない時代に、こんな話をニホン人が現したと知れると、俺は、地球に、ニホンに行ってみたいと言う気持ちが益々強くなった。
同時に、地球に抱いていた憧憬は、何時しか期待に変わり、やがて不安になり、それは日増しに強くなった。
今、こうして、月の民からのシグナルを待つだけの時間は、当時と比べると和らいではいるが。
「浅川さん、任務、お疲れ様でした」
月からサングラスにメッセージが届く。
随分と時間を要したが、俺の最後の仕事だ。
「待たせたな......」
「情報は集まりましたか?」
「ああ、端末に録画してある」
俺はサングラスのフレームに手をかけた。サングラス型のウェアラブル端末だ。任務上、外すことが出来ないので「サングラスは外さないのか? 外せばそこそこの美丈夫なのに」と茸鳥家にいた誰もが思った筈だ。
流石に、かぐや様があの品物を持って来いと仰った時には焦ったが。
「地球は、日本はどうでした?」
「そうだな、何処から話そうか」
俺は、サングラスを外し、茸鳥家で生活してからの出来事を思い出しながら、話始めた。
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