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妻は這うようにして近所に助けを求める。
どうして、こんなことに……?運ばれた時はまだ息があったのに……。
妻の尋常ではない様子に、深夜にも関わらず近所の人たちはすぐに駆けつけてくれた。
家の中に入った彼らが見たものはすでに事切れた夫の遺体だった。
煌々と照らされる男の凄惨な姿に全員が息を飲む。
すでに流れ出た血液はどす黒く固まりかけて時間の経過を物語っていた。
そして部屋に充満する血液の生臭い匂いと刃物で切ったとは思えない、包帯のギザギザの切り口。
誰かが無理矢理、全身の火傷の傷口を暴いたような、遺体の不自然で無惨な様子。
そして何よりも畳のあちこちに付いた、赤黒い血と泥の混じった獣の足跡。
そこでようやく、誰もが気づいた。
「ヤコやなかね……?」
「うん。こりゃあ、ヤコたい」
「ヤコが来たったい」
「ヤコが家の中に入って来て、“かさぶた”を喰うたったい」
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