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「ジ、ジン様……っ、成りませぬ、此の様にお手を煩わせる等、私……!」
「黙っておれ。命宿る母体は尊い……鞭打つものでは無いだろう」
微笑むジンの優しく静かな声に、頬を染め俯く女官。ジンは大人しくなった女官を抱え、来た路を引き返す。と、其所で見えた影はイン。当然、何も知らぬインの表情が固まってしまった。更に、先程の経緯も手伝い。
「ジ、ン……」
小さく呟く声。流石に此れはと、ジンは状況を説明すべく口を開きかけた。が。
「何故……」
苦し気に、拒絶する様な声を絞り出すイン。俯き、静かで悲痛にも似た其の声は重くジンの耳へしっかり響いた。女官がインへ弁解しようとするも最早意識が朦朧とし、叶わない。
間の悪い事。インにはジンの腕の中、其の衣を掴み、身を寄せる様に見えてしまい。
「此の様な当て付けは、あんまりではないか」
「待てっ、此れは――」
震え出したインの肩。衣を翻し背を向けたインは、其のまま姿を消してしまった。
ジンは思わず焦りインを追おうと体が動いたが、腕の中で気を失ってしまった女官の存在に我に返り、落ち着きを取り戻す。己も子を持つ身、女官の腹を見詰め苦笑いを浮かべる。
「済まぬな、汝の母の気を煩わせた様だ。安心せよ、必ず送り届けよう」
腹の子へ語りかけ、ジンは又歩みを進めた。女官が集う後宮の一廓に現れたジンへ、女官達は先ず驚いた。頬を染め、声を挙げそうになるのを抑えつつ、一斉に揖す。
各龍の城に仕える者は、皆其々の種族から強い力を生まれ持った希少な者達から成るが、やはり蛇が多数を占める。
うっとりとジンを眺める女官達。ジンの腕に抱えられた女官を訝しみ小声で噂するが、どうも様子がおかしいと気が付いた様子。
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