愛故に。

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「どうした、まだ俺と居たいのか。早く戻らないと、インが又妬くぞ」  我に返り、リンより顔を背けたジンの表情は、まだ浮かなかった。誤魔化す様に、背を向けたジン。 「済まぬ……兄者、又」  衣を翻す姿が消える。静まり返った部屋。リンは、軽い溜め息を一つ吐くと、手元の書へと再び視線を移す。其れは、何時もと変わらぬ、冷静な表情で。  白龍の宮殿。インに少し遅れて戻ったジン。取り敢えず湯浴みを済ませ、インの部屋へと赴くと、漸く其の身に触れる事を許された。  先程味わった不安も手伝ってか。床(とこ)へ沈むと、共に我も時も忘れて激しく抱き合うた。インの艶を帯びた声、其れへ答えるジンの吐息。互いに、其の熱情を奪い合うかの如く。   しかし。そんなにも熱く情を交わしながらも、ジンの中は心の奥へ、不安が潜んでいた。兄の、リンのあの表情。 「――やはり、怒っているのか……?」  激しく睦合い、漸く一息付いたインが訊ねる声。まだ其の余韻か、顔は火照り、艶も帯びて居て。  上より見詰めるジンは、其の額へ優しい口付けを。 「いや。そう感じたか」 「ん……何と言うか、其の……」  頬を染めながら、インがジンの首元へ手を回して。 「何時もより、荒々しく……熱い」  其の身に残る余韻へ、恥じらいつつも出たインの言葉。ジンは、苦笑いを浮かべた。 「そうか。気に入らぬか」  インの唇へ軽く触れると、一先ず其の傍らへ身を横たえるジンが、インを抱き寄せて。インは、ジンへ身を寄せながら其の胸へ顔を埋めてしまう。 「わ、悪くは無い……が、い、何時もより、私も、其の……はしたなくなってしまう……から……」   顔は熱が上がり耳迄も赤く染まった。インの様子へ愛しさ募り、更に身を引き寄せ、再び重なる唇。次は、息を付けぬ程の口付け。インから漏れる艶かしい吐息が、ジンの耳を擽る。やがて唇は、名残惜しげに解放された。そして、何故か切なげに見詰める金の瞳にインが案じて。
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