愛故に。

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 此れにインは、蕩ける様な心地よさを覚えながらも、時折不安も胸に過っていた。此の愛をもし失った時に、自分はどうなるのだろうと。其れは、愛した者を失う苦しさ、恐ろしさを知るから故の不安で。 「済まぬ……信じなければ成らぬと言うのに……」 「構わぬと言うたろう」  インは体を起こすと、ジンへ軽く口付けた。ゆっくりと唇を離し両手に包む様にその頬へ触れて、ジンの金色の瞳を切なげに見詰めるイン。 「そんなに、私を甘やかすな……」  静かに、そう出た切ない声。ジンが体を起こしながら、そんなインを抱き寄せてやる。 「何だ……では、怒れば良いのか」  そう問われては、と。困った様に俯いてしまうイン。 「……汝は、こんな私に憤る事は無いのか」  インはジンへ体を預けつつ、逆に問い返してみる。ジンは僅かな沈黙の後、インの身をを柔らかな床へと再び沈めた。静かな部屋に響く、床の軋む音。突然変わった己の位置に驚き、インが覆い被さるジンを見る。 「私がこんなにも愛していると言うのに、汝はまだ解らぬらしい。酷いものだ……」  そう言って、ジンはインへ口付けを。先程インを黙らせた時よりも深く、熱く、貪るように。漏れるインの吐息は艶を帯び、更にジンの欲を掻き立てた。漸く、解放されたインの瞳は最早熱で潤み、体の疼きも押さえられない。唇を離したジンを恨めしそうに、又物欲しげに見詰めるインの頬を撫でながらジンは、満足げな笑みを浮かべて。 「では、望み通り怒ってみるか……此の身へ、直接伝えるのが一番だろう」  そんな言葉へ、インは火照る顔を背けてしまう。 「っ……そ、そういう意味では――」  言葉は、再び熱くも甘い口付けで遮られ。と、まぁ。双方にとって、始まったばかりの新鮮な日々は、甘く満ち足りたものであった。
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