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しかし、インに先程にあった衝動。其れは、一度愛を失くした経験が、何時も心の奥に暗い闇なり常に潜んでいる。止めどなく溢れる思い。其れが強く、深くある程に不安も同じ程に育って。今ある愛もいずれ失うやもとの恐怖、止まらぬ思いへの葛藤を繰り返す筝が続いていたのだから。
一方のジンだが。只々インの全てが愛おしく、全てを受け止めたい一心。其の想いがインを不安にさせる程の甘やかしになっているとは、当のジンには知るよしもなくだ。更にジンは、初めて色恋に嫉妬という感情を覚えた。インは元より異性より同性へ恋慕される事が多々あった。以前ならば、面白可笑しくからかう程度であった事案だったのだが、今は。インを眺める者あれば疑念を抱き、心は醜く歪みゆく程に。
まだまだ、双方にとって未熟な恋である様子。離れがたいぬくもりを離し、其々又責務へ。そんな中、インの方はある客を招いていた。それは。
「――リン。わざわざ済まなかった」
笑顔でリンへと拱手するインへ、リンも軽く笑って拱手した。本日、黒龍の使いにより偶々西へ出向いたリンは、其の次いでにと頼まれ事を果たしにインを訪ねて来ていたのだ。
「構わない、ついでだしな。ジンとは仲良くやってるか?」
然り気無く出された話題に、インは一瞬声に詰まるも。
「ま、まぁな……」
頬を染めて、視線を外してしまう。其の反応へ、少しからかう様に笑うリン。
「何よりだ。けど、ジンを泣かせたら承知せんぞ」
と。些か突っ込みところのある釘刺しである。
「リン……私に言うのか」
リンの言葉に、インが物申した。此れ迄の素行を元にその様な心配をされるなら、どちらかと言えば己が適当なのではと胸を過ったもので。一体どの様な感覚で弟を見て居るのか。
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