燃える頬

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楽しかった海水浴。 その中で一点がしこりとなって残る。 彼はどうして……あんな事。 海の家でナンパを上手くかわせずにいたところにやって来た私の幼馴染み。 「消毒してやる」 そう言っていつまでも残っていた、他人に強く掴まれていた手首の感触を一瞬で払拭してくれたのは良かったけれど、今度は彼の唇と舌の感触だけがしつこく残る。 分かってる。 どうせ、犬とか猫にするようなそんな感覚で彼はしたのだと。 「……何?」 「や……べ、別に、何でも……無い」 「疲れたから、座ろうぜ」 南北線と東西線とが交差する駅でみんなと別れてからの地下鉄内。 時間帯のせいか、珍しくがらんどうの中で遠慮なく座る彼と拳二つ分を開けて座る。 「眠い。肩貸して」 そう言って膝を寄せて隙間を埋めてくる。 「え?でも……」 私の返事も聞かないうちに彼はあっという間に規則正しい寝息をたて始めた。 「……亮太?寝ちゃったの?」 その問いにも答えず彼の肩が規則正しく上下する。 「何だ、本当に寝ちゃったんだ……」 幾つかの駅で人が降り人が乗る。それをぼんやりと眺めていた。 私の頬を彼の髪がくすぐった。 彼の無防備な寝顔を盗み見る。 「……大好き」 誰にも聞こえないように、囁く。 もちろん夢の中にいる彼にも聞こえないほどに声を絞った。
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