001 火の玉の集い

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暗い廊下に立っている。 木製の床は、季節の割にひんやりしている。吹いてくる風も、どこか季節外れのように寒く、撫でられた肌に鳥肌が立つ。 どこなのだろうか・・・・ 歩くごとに床がギィギィと軋み、不気味さが増してくる。どこか懐かしい、見慣れない廊下。 この感じ、どこかで・・・・ 「悠ちゃん、こっちへおいで」 懐かしい声が廊下に響き渡り、立ち止まる。どちらから聞こえてきたのだろう。 反響しすぎているせいで、前後どちらから呼んでいるのか、完全に分からない。 「母さん! どこ? どこに居るの?」 気付けば、そう叫んでいた。 しかし、反響するばかり。まともに届いているのかも分からない。 「こっちよ、悠ちゃん」 勢い良く振り返る。今度は自信を持ってこっちから聞こえた、と言い切れる。何故か分からないが、確かに後ろの方から聞こえたのだ。 耳障りな軋みをたてる廊下を、ただひたすらに歩いた。 だが、曲がり角が一切見当たらない。直線的な廊下が闇に伸びるだけ。 その間も「こっちだよ」という声は響いていた。 進むに連れて、少しずつだが声量が大きくなっている。この方向で間違ってはいないようだ。 暫く、ただ歩き続けた。 そして、変化の見られなかった景色に1つの変化が訪れた。 完全に閉ざされていた襖が、1箇所だけ開いており光が伸びていた。 恐る恐る近づくと、反響する呼び声はあの部屋から聞こえているようだ。つまり、そこには 「かあ、さん・・・・?」 呟くとそれ以降一言も話さず、黙々と歩く。 そして、部屋の中を覗くとそこには… 畳に刺さり、直立する武器が7つ。規則正しく並び、その前に見覚えのある後ろ姿を見つけた。 背中の半ばまで伸びた艶のある黒髪。 スラリとのびた四肢は細く、容易く折れてしまいそう。あまりにも華奢だ。 灰色のカーディガンに紺のスキニー。見慣れた母の姿がそこにはあった。 だがその目に光はなく、焦点が合っていないため何を見ているのか、全く分からない。 心配になり、 「母さん! 俺だよ、悠だよ」 と言っても何も変わらず、微かに唇を動かすだけだ。 そして何を言っているのかも分からない。
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