番外編 ~ 椿 ~

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「好きなんだ…一度諦めたが…無理だった…。」 「は?」 「会ったことあるってこと?」 「ああ。一度だけな…。」 その後俺はずっと女の子を見続けた。 寂しそうにフルートを吹く姿を見ていると、胸が締め付けられたように感じた。 そして改めて気付かされる。 俺があの女の子のことを好きでたまらないってことが。 ……俺にこんな感情を抱かせるのは…あいつくらいしかいないな…。 「…響。」 「何だ?」 「引き受けるぜ。」 「…ありがとう。」 「…お前にお礼言われるの気持ち悪いな…。」 「……。」 「響は普段お礼言わないもんね。」 「…うるさいな…。」 「ごめんごめん。でも…響をそこまで惚れさせた女の子、僕も知りたいな。」 「俺も八割がたそれだな。」 「お前らな…。」 「余程の何かがあるんでしょ?」 「じゃなきゃお前がそんな幸せそうな顔しないもんな。」 「は?」 ……幸せそうな顔…?…俺が? 「どんな顔だ?」 「教えねぇ。」 「教えなーい。」 「ハァ…。」 俺は大きくため息をつき、再び視線を女の子へと戻した。 悲しそうな瞳で海を見つめている姿はとても儚かった。 ちょっと後ろから突っついただけで、壊れそうだった。 ……早く…お前のことが知りたい……。 そう思い、俺は女の子が帰るまで、ずっと見続けた。 琢磨と真司も、静かに見ていた。 ****** 「ほれ。」 「やっとだね。」 「これでも頑張ったわ。」 「……。」 何週間かして、琢磨が女の子の情報を持ってきた。 俺は琢磨から渡された書類に目を通した。 ……そうか…椿って言うのか……。 控えめで美しいあの女の子にピッタリだ。 そう思ってしまう時点で、俺はだいぶ重症だろう。 ……ん? 俺はある項目に目がいった。 それは椿の母親に関することだった。 ……松野楓…あの時の! それは親父の友人だった、あの女の人だった。 ……嘘だろ…。 俺はしばらく受け入れられなかった。 もしかしたら…あの時親父に言ってれば…。 そう思ってももう遅い。 さらに読み進めると、交通事故にあって亡くなったことが書かれていた。 そしてその下の文を読んで、俺は目を見開いた。 「琢磨…これ…。」 「やっぱりお前も引っかかったか?」 「何が?」 そう言って真司が書類に目を通した。 「え?何で?」 どうやら気づいたらしい。
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