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「それで拓磨くんを使ったってことか。」
「あんたどこまで知ってるんだ?」
「いや…お前に好きな人がいるというのは薄々気づいてたが…さすがに調べるのはな…。」
「てことは、椿がどういう奴かも知らないと。」
「そうだ。」
「結婚は?」
「…その資料を早く見せろ。」
言われた通り、俺は机に資料を乗せた。
親父は資料に目を通し始め、時折驚いた表情になったり、顔を顰めたりした。
「……。」
「俺は椿以外と結婚するつもりはない。」
「…最悪余計に椿さんを傷つけるかもしれないんだぞ。」
「……。」
「椿さんにはどこかに保護してもらうという方法もある。」
「……。」
「どうなんだ?」
親父が言っていることは正しい。
俺の地位目当てに媚を売ってくる女が何をするかもわからない。
そうじゃなくても、何かしらの危険が及ぶかもしれない。
……それでも…。
俺はその場で膝を折り、土下座した。
「俺と椿を結婚させてください。確かに俺のせいで椿が傷つくこともあるかもしれない…けど、俺は椿を救いたい。」
「……。」
「俺の手で椿を幸せにしたい。」
「……。」
「お願いします。」
そう言ってから、親父が返事をするのに十秒程かかった。
「はぁ…わかった。」
「っ!」
「そのかわり!」
親父は俺の前に立ち、土下座している俺を見下ろしながら、
「私も仕返しさせてもらうよ。」
と言った。
「は?」
「だって椿さんが響のお嫁さんになったら私の娘になるってことだろう。娘を傷つけられて放っておくクズみたいな親はいない。普通は。」
親父はニコニコしながらそう言ってるが、目が笑ってない。
「雅邦さんから記憶を失っていることは聞いていたが…まさかこんなことになってるとはね…。」
「……。」
「まぁ、椿さんは楓さんに良く似たようだからね。結婚、全然OKだよ。」
……さっきまでの空気どこいった…。
「響が大した覚悟もなしに結婚したいとか思ってるようだったらぶん殴ってたよ。」
……何かどっかで味わったなこの気分…。
そして俺は思い出した。
雅邦さんに椿への覚悟を聞かれた時のことを…。
……俺…中途半端な答えだったら殴られてたのか…?
なくはない。
なぜならさっきまでの親父の雰囲気と、あの時の雅邦さんの雰囲気が全く同じだったからだ。
……怖っ…。
そう思っても仕方がないと、俺は思う。
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