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『勝手にいなくなっちゃうなんて、ずるい。理由も教えてくれないまま消えちゃうなんて』
日高さんに放った自分の言葉を思い返すと、両手で顔を覆いたい気持ちになった。
何も知らず、あんなことを口走った自分が腹立たしい。こんなわがままを、先輩本人にぶつけなかったことはせめてもの救いだ。
もっとも、――いくら叫んでも、今の先輩の耳には届かないけれど。
「なんでこうなるかな……」
大輔がぽつりと言った。
「あんなかっけー曲作る人が、よりによって一番大事な聴力を失うとか。デビューして、ファンも増えてきて、これからって時にさ。悲しすぎるよ」
大輔の言葉は、苛立たしさと無力感に満ちていた。
わたしも同じ思いだ。いくら歯噛みしても、先輩にしてあげられることは何もない。それがもどかしくてやりきれない。
「……ちゃんと治るのかな」
わたしの呟きに、大輔は「どうかな」と答えた。
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