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観音様
H市のIという山近くにあるワンルームハイツに住むHさんの話
ある日隣のおばさんからこんなことを言われた。
「あんたの部屋女が刺し殺されよったんやで」
嫌な話を聞いたなと、Hさんは後悔した。なんでそんな話を聞かせてくれたんだろう。
それと関係あるか分からなかった。
だが、夜中になるとHさんの部屋から女性の悲鳴のような声が度々聞こえてくるという。
あまりにも毎夜続くのでハイツの近くにあるI寺の観音院へお参りに行った。
すると、お参りの効果があったのか悲鳴は聞こえなくなってしまったと安堵したHさん。
暮らし始めて半年経ち、Hさんは彼女を部屋に招いた。
狭い部屋のひとつのベッドで彼女と添い寝をしていた。
ふと目を覚ましたHさん、なんだか鉄臭い。背中にヌルっとした感触に半身起して枕元の照明を点けた。
隣に血塗れの彼女が寝ていた。
悲鳴を挙げながら部屋を飛び出し、無我夢中で観音院に向かって行った。
「助けてください助けてください…」
震えながら一心不乱に祈り続けた。
部屋に戻ると彼女の姿が無かった。それ以来彼女と連絡が取れず、彼女の消息を気にかけていたHさん、彼女を知る友人に尋ねると、彼女はあの夜、ベッドの上で血塗れになっているHさんを見て怖くなり飛び出したと言う。
Hさんが見た彼女はHさんの知る彼女では無かった。
HさんはI観音様の側に住んでいれば安心していられるという理由で今でもそのハイツに暮らしているという。
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