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1 俺が硬派の狩野勝利だ!
「帰るって……?嘘だろう」
「私はこの世界の人間ではないのです。役目を終えたので帰らなければなりません」
「そんな……」
「勝利様、今まで有難うございました。これでお別れです。2度と会うことはないでしょう。さようなら」
満月の夜、着物姿の少女が長い黒髪をたなびかせて背を向ける。
「な、何で……。勝手に来て、散々人を振り回しておいて、そんな安っぽい思いだったのかよ。ちょっと、待てよ。待てってばー!」
手を伸ばして、肩を捕まえようとした。
かばっあ~!!
手を伸ばしたまま、上布団を跳ねのけて起き上がる下着姿の少年。
「な、何なんだよ~、この夢は!?」
はぁ~。
ぱた~んとそのままの状態で、床布団の上で前のめりに寝そべった。
「カアァァーーーーツ!!」
バシッ!!!
「いてぇー!」
肩を押さえて見上げると、黒い袈裟姿で見事な顎ひげの老人が立っていた。手には木の細い板(警策)が握られている。
「く、くそジジイ。何すんじゃー!」
「たわけ、いつまでも起きんからじゃ」
「起きる何もまだ目覚ましも鳴っていないじゃないか。ほら、見てみろ!」
枕元の大きな目覚まし時計を、力強く指差した。時計の針は4時を示している。
「4時?」
「随分明るい4時じゃな」
(秒針が動いていない)
「うぉ〜〜〜〜!止まってる~!!」
もの凄い早さで学生服姿に着替え、鞄に教科書を詰め込んでいく。
「今、何時だ」
「7時20分ぐらいじゃな」
「何でもっと早く起こしてくれないんだ」
「1度、声はかけたぞ。そもそも高校生にもなってまだ人に頼るか、甘えるでない」
「く、くそう。間に合わないぞ」
「ちゃんと朝飯を食わんと大きくならんぞ。それでなくても……」
「行ってくる」
言葉を残し、姿は消えていた。
一陣の風とともに、散乱する部屋を見つめる狩野栄達は頭を抱える。
「わが孫ながら、ほんと情けない」
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