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「くそう~。早く食って、目覚ましをセットして、早く寝て、どうして失敗するんだ!」
狩野勝利(あだ名はカツ)はこの春から川向こうの丘に建つ、私立葉蘭高校に通っていた。ふた月も経つと、何かと問題が生じてくる。
葉蘭高校は今年で女子高校として、創立70年を迎えるはずであった。年を重ねるごと生徒数は減少し、経営を圧迫していた。改革案として一部猛烈な反対はあったものの、来年試験的に男子を極少人数であるが採用することにした。
決定も然ることながら募集告知も遅れた為、思うように生徒が集まらない。仕方なく近郊の学校で応募者を募ることになり、学校推薦であれば成績や生活態度は多少は目をつむることにしたのだ。
本来行く先が無かったカツにとって、推薦入学という形で高校に入れたのは幸運というべきであろう。本人にしてみれば不幸の始まりかもしれない。何故ならカツは今や絶滅種の硬派を自称する少年だからだ。
かくしてカツは今年の新入男子12名の1人となり、女子600名との悪戦苦闘の日々を送ることになる。
カツは永楽寺と書かれた門を出て、民家の軒下を通り抜けるとすぐに土手が現れる。上りきると河川敷や川が見えた。車が通れない狭い土手道を、橋に向かって懸命に走る。
カツが住む番条町は昔と変わらぬ平屋建ての多い寺と漁業の町である。一方で学校がある隣町の本庄町は貿易で栄えた商人の町で、今や高級マンションや大型デパートと建設ラッシュで沸いていた。
「くそう~。こんなに距離があるのに、どうしてバイクや自転車通学できないんだ」
家から学校まで、普通に歩いて片道1時間以上かかる距離があった。
〈申請すれば可能なのだが、栄達は勿体ないと判断したのか?それともただ単純に忘れただけなのか?不明〉
橋の上では山から海へ、強い吹き下ろし風が吹いている。渡り切るとすぐに、学校へ続く真っ直ぐな坂道が見えてくる。道の両脇には似たような住宅が段々に建ち並んでいた。
カツは休むこともなく、通学路に指定された広い坂道を駆け上がる。
「よし、あと一息だ」
正面に学校が見える。と同時に鉄の重厚な門が右から左へ動き始めた。
「完全に閉まりきったらおしまいだぞ」
閉まるまで3メートルを切った。間をすり抜けるのは危険である。
「一か八か……」
「でやぁぁーーーー!!」
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