1 俺が硬派の狩野勝利だ!

1/8
前へ
/37ページ
次へ

1 俺が硬派の狩野勝利だ!

「帰るって……?嘘だろう」 「私はこの世界の人間ではないのです。役目を終えたので帰らなければなりません」 「そんな……」 「勝利様、今まで有難うございました。これでお別れです。2度と会うことはないでしょう。さようなら」 満月の夜、着物姿の少女が長い黒髪をたなびかせて背を向ける。 「な、何で……。勝手に来て、散々人を振り回しておいて、そんな安っぽい思いだったのかよ。ちょっと、待てよ。待てってばー!」 手を伸ばして、肩を捕まえようとした。 かばっあ~!! 手を伸ばしたまま、上布団を跳ねのけて起き上がる下着姿の少年。 「な、何なんだよ~、この夢は!?」 はぁ~。 ぱた~んとそのままの状態で、床布団の上で前のめりに寝そべった。 「カアァァーーーーツ!!」 バシッ!!! 「いてぇー!」 肩を押さえて見上げると、黒い袈裟姿で見事な顎ひげの老人が立っていた。手には木の細い板(警策)が握られている。 「く、くそジジイ。何すんじゃー!」 「たわけ、いつまでも起きんからじゃ」 「起きる何もまだ目覚ましも鳴っていないじゃないか。ほら、見てみろ!」 枕元の大きな目覚まし時計を、力強く指差した。時計の針は4時を示している。 「4時?」 「随分明るい4時じゃな」 (秒針が動いていない) 「うぉ〜〜〜〜!止まってる~!!」 もの凄い早さで学生服姿に着替え、鞄に教科書を詰め込んでいく。 「今、何時だ」 「7時20分ぐらいじゃな」 「何でもっと早く起こしてくれないんだ」 「1度、声はかけたぞ。そもそも高校生にもなってまだ人に頼るか、甘えるでない」 「く、くそう。間に合わないぞ」 「ちゃんと朝飯を食わんと大きくならんぞ。それでなくても……」 「行ってくる」 言葉を残し、姿は消えていた。 一陣の風とともに、散乱する部屋を見つめる狩野栄達は頭を抱える。 「わが孫ながら、ほんと情けない」     ▶ 
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加