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忘られ島
南風に流れ海へ甘え、生まれ育った島に流れついた世捨て人が一人。時と海どりは、風任せメロディー奏で、やつれた男を出迎える。
香る潮風、波の音。目が、耳が、肌が、感覚の全てが、過去を遠いものとして思い出す。
燦々と照り付ける太陽はチリチリと、胸の奥を焦がす。あまりに眩しくて、迎えに来てくれたアキラとの久し振りの再会だって、しかめっ面での対面となってしまった。すっかり海の男となった友人の第一声は、「おかえり、疲れたろ?」である。
高校時代、ふくよかな体系だった友人のアキラ。彼は見違える程逞しくなっていて、島育ちのくせに青白い自分の肌と比較すると溜め息を吐きたくなる。
「どうせ親父さんの所には、行かないんだろ? 俺ん家に泊まっていけよ」
事情を知っている友人の気遣いに、気を張って取っ手を握っていたスーツケースとギターケースが重くなる。潮風に香る海の柔らかな匂い、ティーシャツがびしょびしょになる位の暑すぎる太陽。俺はあんなにも退屈で疎ましく思った故郷を、不覚にも懐かしんだ。
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