忘られ島

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「お前が来るって言ったら、俺ん家のじい様が美味い酒くれたんだ」 「おおっ、そいつは楽しみだ」  敷地内に入ると砂利道で、潮風に乗った砂埃がキラキラと舞う。アキラは慣れた手つきで、プレハブの車庫に車を停める。  幼き日、かくれんぼした広い庭に、離れが一つ。いつも後ろからくっ付いてくる、二つ年下の弟は、よくこの庭で迷子になったっけ。俺とアキラは直ぐに置いてきぼりにして、泣きべその弟は、昔よくいたもう一人に手を引かれ帰ってきたものである。 「トミオもノブもヤスも皆、東京、大阪、福岡、みんなバラバラさね」  殆どの友人は、本土に渡って、今ではフェイスブックの中でしか、連絡を取ることもない。俺達、島の子供は幼き頃より、いつしかこの退屈な島から出ることを、使命かのように思っていて、当たり前のように行きたい場所に旅立つ。そして渡り鳥みたく旅から旅を繰り返し、様々なドラマの経て、それぞれ今では家庭を築いたり、一流商社に勤めていたりしているわけである。  陸続きの都会で生まれた者に、この気持ちは、理解しえないであろう。  いつか皆で集まろうだなんて、簡単に言葉にしてみるものの、実行に移すのは凄く困難で、海を隔てただけで、心の距離はこうも遠くなるのだ。
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