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【序章】過去の記憶
_森の中を私は手を引かれて駆け抜けている。
_この時間は普段なら真っ暗だが今は森の外が眩しいぐらい輝いているせいか森の中は赤く照らされている。
_私の手を引く母さんはこっちを見向きもせずただひたすらに私の手を握り締め走り続けている。
_力んだ母さんの手が震えていることに私は気付いていた。しかし今自分が置かれている状況を理解出来るほど私は成長してはいなかった。
「おかあさん……どこまでいくの?_みんなからはなれちゃうよ?」
「少し静かにしていて!!」
_どんな時も優しい母さんから想像も出来ない程大きな声で怒鳴られ私は思わず硬直してしまう。
_森の外から流れてくる熱気と叫び声、走り続けた疲れで気持ちが悪くなり私は大きくバランスを崩した。
「……イリス!!」
_母さんは慌てて私に駆け寄り身体のあちこちを確認する。
_転んだ時に擦りむいた膝から赤い血が流れ出ていた。
_私が痛みで泣き始めると母さんは私の頭を優しく撫でポケットから取り出したハンカチを私の膝に巻き付ける。
_それでも泣き止まない私を母さんは強く抱き締めた。
「ごめんね、ごめんねイリス……。痛かったよね、立てる?_走れる?」
_母さんが私を抱き締めている時、僅かに森の中の空気が変わった。
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