第1話  蚊の鳴くような歌声と他人の喧嘩を買う男

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 それは、ささやき声をちょっと大きくした程度でしかなかったが、エメルには精一杯だった。 「しょうがねえなあ。じゃあそのボリュームでオレ様のクエスチョンに答えてもらうか。ドゥーユーアンダースタン?」 「はい……」 「年齢は?」 「一六歳です」 「お父さんが日本人なの?」 「いいえ、お母さんが」 「ふうん、じゃあその黒髪はお母さん譲りか」  デブオタが何気なく「艶があって綺麗だね」とつぶやくとエメルは嬉しそうに自分の黒髪を撫でたが、すぐ悲しそうに顔を伏せてしまった。 「エメルはイギリスで生まれも育ちもイギリスなのかい?」 「日本で生まれました。二年前にイギリスに引っ越してきて、しばらくしてお母さんが病気になって……」 「いま入院してるの?」  エメルは、また蚊の鳴くような声に戻って「去年亡くなりました」と俯いた。  泣きそうなのを懸命に堪えている。デブオタは慌てて謝った。 「すまん! 辛いことを聞いちまったな。知らなかったんだけどよ……ごめんな」 「気にしないで下さい」 「いや、親御さんが亡くなって悲しいのは当然だろ。ごめんなごめんな」  ペコペコと頭を下げるデブオタは、リアンゼルを罵倒していた時とは別人のようだった。     
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