28人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、ささやき声をちょっと大きくした程度でしかなかったが、エメルには精一杯だった。
「しょうがねえなあ。じゃあそのボリュームでオレ様のクエスチョンに答えてもらうか。ドゥーユーアンダースタン?」
「はい……」
「年齢は?」
「一六歳です」
「お父さんが日本人なの?」
「いいえ、お母さんが」
「ふうん、じゃあその黒髪はお母さん譲りか」
デブオタが何気なく「艶があって綺麗だね」とつぶやくとエメルは嬉しそうに自分の黒髪を撫でたが、すぐ悲しそうに顔を伏せてしまった。
「エメルはイギリスで生まれも育ちもイギリスなのかい?」
「日本で生まれました。二年前にイギリスに引っ越してきて、しばらくしてお母さんが病気になって……」
「いま入院してるの?」
エメルは、また蚊の鳴くような声に戻って「去年亡くなりました」と俯いた。
泣きそうなのを懸命に堪えている。デブオタは慌てて謝った。
「すまん! 辛いことを聞いちまったな。知らなかったんだけどよ……ごめんな」
「気にしないで下さい」
「いや、親御さんが亡くなって悲しいのは当然だろ。ごめんなごめんな」
ペコペコと頭を下げるデブオタは、リアンゼルを罵倒していた時とは別人のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!