第1話  蚊の鳴くような歌声と他人の喧嘩を買う男

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「お母さんが、それで無理に学校に行かなくていいって止めてくれて。いっそ日本に帰ろうかって言ってくれたけど、ちょうどそのときに敗血病にかかっていたのが検査で分かって、お母さんそのまま入院して……」 「そうか」  もしかしたらこの少女はイギリスに来てからこのかた、辛いことばかり続いて今のような泣き虫になってしまったのかも知れない。  デブオタはしばらくの間、黙ってエメルを見つめた。 「そういやリアンゼル、だったっけ。アイツ、何とかってオーディションに落ちたって言ってたよな」 「『ブリテッシュ・アルティメット・シンガー』のことですか?」 「そうそう、それだ。それってどういうオーディションなんだ?」 「ご存じないですか。ロンドンで年に一回開催されるアマチュア歌手のオーディションです。日本でもそういうはあっていませんでした?」 「ああ、年一回どころかしょっちゅうやってるよ。テレビの歌番組は昔ほど人気はないけどね。アイドルなら声優アイドルからご当地アイドル、地下アイドルまでジャンルが多々あって選り取り見取り。多すぎてもう何がなんだか。今や生き残りを賭けた戦国時代だなぁ」 「へえ、そうなんだ……」     
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