第1話  蚊の鳴くような歌声と他人の喧嘩を買う男

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 それは多少デブオタのホラも混じっていたが、エメルは眼を丸くした。 「でもイギリスでは『ブリテッシュ・アルティメット・シンガー』は特別です。アルティメットって名前がつくくらい凄く権威のあるオーディションなんです。事前選考が通ったら公開審査に出られるんですが、そこからテレビ番組で中継されるんです。視聴率が高いから出場しただけでちょっとした有名人になります」 「へえ、そりゃ凄えや。アイツはそこで落ちたのか」 「勝ち抜きのステージ形式で、優勝したらデビュー出来て、そのまま一流スターに仲間入り出来るんですけど……」 「あんな腐った奴がもう少しで一流スターになれるところだったっていうのか。日本じゃとてもあり得んな」  ブタのようにフゴッと鼻を鳴らしたデブオタだったが、自分の横で「出場出来たって凄いなあ……」と感心しているエメルに気が付き、ちょっと呆れてしまった。 「おい、自分をいじめた奴に感心してる場合かよ」 「す、すいません」 「じゃあアイツはプロの歌手を目指していたから……」  デブオタは「そうか」と、気が付いたように指でこめかみを叩いた。 「だからアイツはわざわざエメルの歌に八つ当たりしに来たのか」
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