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「聞こえてないの? とにかく歌わないで。歌って云うのはね、歌うのにふさわしい資格がある人に許された特権なの、私のようにね。ブリテッシュ・アルティメット・シンガーのオーディションで……まぁ落選しちゃったけど、もう少しで優勝出来たはずの私みたいな人しか歌っちゃ駄目なの、わかる? ヒバリやツグミは歌っていいの。ガマガエルとか毛虫とかは歌っちゃ駄目なの。生きているだけで迷惑なの」
おい、人として言っていいことと悪いことがあるだろう
この世の常識だと言うようにヒエラルキーを説く言葉に、デブオタの顔から苦笑じみたものが消えた。次第に、怒りがこみ上げる。
「あなたはクズなの、ゴミなの。日向には出てきちゃいけないの。この世には光を浴びるべき存在と、日陰にいるべき存在があるのよ」
やめろ、いい加減にしろ
鼻を啜り上げる音が聞こえる。いじめというにしても、とうに度を越していた。
容赦のない追い討ちの言葉に、握り締めたデブオタの拳が怒りで震える。
蚊の鳴くような声で歌っていた少女は言い返すことも出来ず、泣いているようだった。
「私は光に当たるべき存在なの。あなたみたいに日陰の存在は光を浴びるべき存在の邪魔になっちゃいけないの。私の視線に入らないで。今すぐどこかに消えて」
(日陰者のファンごときがアイドルに意見するんじゃねえ! イヤなら今すぐどこかに消えろ!)
ふいに――
彼の脳裏に日本で浴びせられた言葉が蘇った。
(恋人がいたのが許せねえだと? 今まで応援してあげたのに酷いだと?)
(お前ら自分の立場わかってんのか? ああ? キモオタどもが上から目線で物を言うんじゃねえ!)
(貴様らはな、あの娘がステージやアニメで輝くための養分なんだよ! 身分を弁えろ、クズどもが!)
(養分が意見なんかするんじゃねえ、ましてやキモいオタ芸なんか見せるんじゃねえ。手前らは黙って金出して応援してりゃいいんだよ! 文句があるならファンなんかやめて今すぐ消え失せろ。手前らの代わりなんざ幾らでもいるんだよ!)
それは、彼が日本で応援していた声優アイドルのステージでの出来事だった。
恋人の発覚を知ったファン達が口々に抗議したとき、彼女の所属するプロダクションのスタッフが彼等へ怒鳴りつけた言葉。
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